お話し【こども・おとな】『いっしょに!』
5月のある日、ひとりの男の子が生まれました。予定より三ヶ月も早く生れたその子は、他の赤ちゃんの半分にもならない944グラム、両手の中に入ってしまいそうなほどの、小さな、小さな赤ちゃんでした。お医者さんはおかあさんに言いました、「いのちがもつか、まず三日ほど待ってください」。保育器の中で、サランラップを巻かれ、管を何本もつけられた、今にも消えてなくなってしまいそうな小さないのち。でも生まれて三日、その小さな心臓は動き続けました。それが凛太郎くんでした。
凛太郎くんは、体が小さくて、弱かったので、何年も病院に行かなければなりませんでした。頭を強く打つと危険だから注意するように、命取りになるから風邪やインフルエンザには気をつけてください、お医者さんからそう言われながらも、凛太郎くんは四歳になりました。
教会の幼稚園に入った凛太郎くん。優しい先生たちに見守られて、幸せな二年間を過ごしました。その頃、凛太郎くんはテレビや絵本で俳句という詩があることを知りました。誰が教えたわけでもないのに、気づけば凛太郎くんは、五・七・五の十七文字で詩をつくるようになりました。凛太郎くんの口から次々と溢れだす十七文字を、おかあさんとおばあちゃんは驚きながら、うれし涙を流しながら、ノートに書き留めていきました。
さて、幼稚園を卒園する頃には、凛太郎くんの体もようやくみんなとおなじくらいにまで大きくなりましたが、足や腕の力は弱いままで、目も悪かったため、交通事故にあわないようにと家族と一緒に学校に行くことになりました。ランドセルを背負う凛太郎くんの後姿を見て、おかあさんは、ここまで育ってくれたことを喜び、神様に感謝をしました。
ところが、学校で思わぬ目にあうことになります。いじめです。
凛太郎くんは足が弱かったで、ぎごちない歩き方でした。バランスを取るため、両手をひらひらとさせながら歩くのを、「オバケみたい」とからかう子どもがいました。それからというもの、朝、学校に行くと、「凛がきたあ!」と友だちが教室の戸を閉めて、中に入れてもらえません。ようやく入れてもらえたところで、寄ってたかって、手でつついたり、足をひっかけたり、腕を雑巾を絞るようにして後ろからねじ上げたりして、凛太郎くんがこけたり、泣いたりするのを笑うのです。「凛ちゃん、いじめられて毎日泣いてる。見てられへん」と女の子がある日、おかあさんにそっと教えてくれました。
入学して一週間目。突然、後ろから突き飛ばされて顔を強く打ち、目が開けられないほどに腫れました。迎えに行って驚いたおかあさんに、担任の先生は、「一人でこけました」と言います。凛太郎くんは勇気を振り絞って言いました、「違うよ、後ろから誰かに突き飛ばされたんや。あんまり痛かったから起き上がれずにいたら、誰かは分からへんけど、女の子が職員室に先生を呼びに言ってくれたんや」。でも、担任の先生は何もなかったことにしました。
そんなことが何度も続きました。
おかあさんと一緒にお風呂に入った時、お腹に大きく真っ青な跡を見つけて、おかあさんは悲鳴をあげました。もう少し上なら腎臓。腎臓の弱い凛太郎くんにとっては、いのちの危険があるところです。「どうしたん?」とおかあさんが尋ねます。すると「男の子に突き飛ばされて椅子の角で腰を打った」と凛太郎くん。そのことを、すぐに担任の先生に伝えましたが、「その男の子は自分ではないと言っています。周りの子にも聞きましたが、誰かやったのか分かりません」。
心配でたまらなくなったおばあちゃんが、ある日、担任の先生とお話をすることになりました。でも、先生はただ黙って下を向いて、おばあちゃんの話を聞くだけ。三十分も経った頃、担任の先生はようやく顔を上げ、初めておばあちゃんと目を合わせ、こう言いました。「凛太郎さんも鉛筆を落としたり、時間割を教えてもらったり、周りに迷惑かけてます」。
それからしばらくたった日曜日の夜、凛太郎くんが初めておかあさんに訴えました。「僕、学校に行きたくない。友だちが僕の顔を見るたびに空手チョップするねん。僕、机の下に隠れるねん」。心配をかけまいと、決して弱音を言わなかった凛太郎くんの初めての訴えでした。おかあさんとおばあちゃんは、いっしょうけんめいに学校にお願いをしました。でも、光が見えないまま一学期が終わりました。そして二学期に入っても、何も変わりませんでした。
「先生は、僕がいじめられてる言うても、“してない、してない”言うて、全然言うこと聞いてくれへん」。二年生の秋を迎える頃、凛太郎くんは学校に行かないことにしました。その時、凛太郎くんはほっとした顔をして、まじめな顔でこうつぶやきました。「学校って残酷なところやなあ」。
その後も、いじめは続きました。友だちの体がさらに大きくなる連れて、小さいままの凛太郎くんへのいじめはますますひどくなっていました。「もう、学校をやめる」。そう凛太郎くんが宣言したのは五年生の時のことでした。
見るのも嫌になった学校でしたが、凛太郎くんが「一番好き」という友だちがいました。同じクラスのヒロシくんです。祭りの日、凛太郎くんとおかあさんとおばあちゃんと三人で見物に行った時のことです。はっぴ姿で、綱を持って走る子どもたちの中から「凛ちゃん!」という声が聞こえてきます。見るとヒロシくんです。ヒロシくんはおみこしから離れて、見物している凛太郎くんのそばに駆け寄って来て、声をかけてくれました。
「凛ちゃん、また、学校に来て。いっしょに遊ぼう!」
「いっしょに」という言葉に胸が熱くなりました。おばあちゃんはヒロシくんを抱きしめていました。(『ランドセル俳人の五・七・五』小林凛、ブックマン社より)
「いっしょに!」
いい言葉ですね。今日は、こどもの日・花の日のお礼拝です。みんなの前に、お花がいっぱいに飾ってあります。このたくさんの花には、いろんな色や形があって、ひとつとして同じものはないけれど、どれもみんなきれいです。いえ、違っているからこそ、とてもきれいだとは思いませんか。神様がそうしてくださったのです。だから、みんなも違っていいのです。違っているからこそ、みんな素敵なのです。神様が、イエスさまがどんなときにも、いつも「いっしょに」いてくださいます。だから、みんなも違っているままに、「いっしょに」仲良く遊んでほしい、心からそう思います。
説教【おとな】「一緒に喜びなさい」
■苦難の時 Continue reading